建物の構造は伝統的な軸組工法を採用し、世代を超えて受け継がれる住宅を目指した。「神は細部に宿る」という言葉があるが、細部にもとことんこだわった。紀州杉で組まれた各部屋の建具枠は非常に緻密なディテールを持ち、建具は壁内に収納できる造りとした。軽やかで開放的な空間と重厚な伝統技術が対比的に響き合い、古くて新しい住まいを形成している。

天井と床には無垢の東濃桧を施すことで、「木」が元来もちあわせる機能を現代住宅と融合させた。壁には左官職人の美しい鏝（こて）技術を味わえる塗り材を施した。壁と天井で区切られる構成から味気なさを排除し、創り手のぬくもりを感じられる空間が演出できたと考えている。

近年、都市部においては深刻化している問題がある。つい最近までは存在していたはずの伝統技術をもった大工がほとんどいなくなってしまった。建主のニーズが大きく変化している昨今において、需要と供給のバランスを考えれば已むを得ないことかもしれない。しかし、このまま工場生産化が進めば、大工の成り手自体がいなくなってしまうと危惧している。山義においては、創り手の顔がみえる家づくりを大切にし、伝統技術を残すための職人育成を継承していきたい。伝統の延長線上にある空間デザインのすばらしさを感じさせる一邸ができた。